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2024.04.27
「江戸風鈴」~耳に届く優しい江戸の音色~
Sense of Hearing
SHINOHARA FURIN HONPO
篠原風鈴本舗
皆さんの家に、風鈴はあるだろうか。夏、軒先や窓際で風に揺れる風鈴が奏でる音は、さりげなく私たちの耳に届き、心地よく心に響く。蒸し暑い日本の夏に、僅かな涼を運んでくれる風鈴の音。「耳」で涼しさを感じることができる……そんなちょっとした不思議に私の好奇心が刺激された。エアコンが普及し、自宅に風鈴を吊るしているという人は少ないかもしれないが、今もなお昔ながらの伝統を受け継ぎ作り続けられている風鈴があると聞いた。そのひとつが、東京でのみ生産されている貴重な風鈴「江戸風鈴」だ。一般的な風鈴とは何が違うのか。その魅力を取材した。
皆さんの家に、風鈴はあるだろうか。夏、軒先や窓際で風に揺れる風鈴が奏でる音は、さりげなく私たちの耳に届き、心地よく心に響く。蒸し暑い日本の夏に、僅かな涼を運んでくれる風鈴の音。「耳」で涼しさを感じることができる……そんなちょっとした不思議に私の好奇心が刺激された。エアコンが普及し、自宅に風鈴を吊るしているという人は少ないかもしれないが、今もなお昔ながらの伝統を受け継ぎ作り続けられている風鈴があると聞いた。そのひとつが、東京でのみ生産されている貴重な風鈴「江戸風鈴」だ。一般的な風鈴とは何が違うのか。その魅力を取材した。

風鈴はもともと「風鐸(ふうたく)」という名称で中国から日本に伝来し、病や邪気から身を守る魔除け道具として発展した。平安・鎌倉時代には、貴族が魔除けのために軒先に風鐸を吊るすようになり、この時から「風鈴」という呼び名になったと言われている。それまでは金属や陶器でできていたものが、江戸時代になりガラス製の風鈴が登場する。「江戸風鈴」が誕生したのもこの頃だ。「“江戸”から“東京”になった今でも、江戸時代と同じ製法で作られているという理由から“江戸風鈴”と名付けました。」と語ってくれたのは、東京都江戸川区、閑静な住宅街の一角で、東京に2ヶ所しかない工房のひとつである篠原風鈴本舗を経営する篠原惠美さん。「江戸風鈴」という名称は、2代目・篠原儀治氏の時代にそのブランド名が生まれ、今でも儀治氏の承諾を受けた一門だけが当時の製法を守りながら作り続けている。あらゆるものが近代化を遂げた今でも、江戸時代の製法を守っているのが驚きだ。
江戸風鈴の特徴は3つある。一つ目の特徴として、型を使わない「宙吹き」で成形しているということ。一般的な風鈴の多くは、型にガラスを流し込み大量生産しているが、江戸風鈴は一つひとつが手作りで同じ形は無い。まず、1320℃の炉中のドロドロに溶けたガラスを、共竿(ともざお)というガラスの棒で少量巻き取る。これは口玉(くちだま)といい、後で切り離され鳴り口となる。均等な厚さになるように、共竿をくるくる回しながら少しずつ息を吹き込み膨らませていく。500円玉くらいの大きさに膨らませた口玉の上に、風鈴本体となるガラスをもう一度巻き付け、再度膨らませていく。この光景は、テレビなどで見たことがある方も多いと思うが、まさに暑さと時間との戦いなのである。私も恐る恐るチャレンジしてみた。職人さんに共竿を支えてもらいながら、ガラスに息を吹き込んでみる……が、びくともしない。もう少し力をいれて吹き込んでみた。すると、ガラスは変な形で膨らみ、無残にもパリンと割れてしまった。呆然とする私に、職人さんは「一朝一夕にできるものではなく、体が慣れていくしかないんだよ。」と笑いながら、目の前で新たなガラスを華麗に膨らましてくれた。そして、ガラスが冷めないうちに糸を通す穴を針金で開け、おしまいに一息で膨らませて整形する。完成までの一連の流れはわずか1~2分。目で追っているうちに綺麗な透明の風鈴があっという間にできた。まさに職人技である。

2つ目の特徴は、鳴り口がギザギザしているということ。口玉の部分を砥石で切り落とすのだが、この時、敢えてギザギザに仕上げる。そう言えば、一般的な風鈴は、鳴り口がつるつる滑らかだ。何故、ギザギザにするのか、その理由に感心した。それは江戸風鈴ならではの「音」のためだ。風に揺られた振り管が鳴り口にこすれて音が出る仕組みなのだ。私は、てっきり振り管が「ぶつかる」音だと思っていた。「こすれて」出る音だったとは気づかなかった。篠原さんはその音色の魅力を「風鈴本体の大きさや厚みもそれぞれ異なるため、音色も様々ですね。」と語る。「素材によっても音が違う。鉄製の風鈴は余韻があるけれども、江戸風鈴は余韻があまりない。柔らかいけれどもさっぱりしている。」そう話す篠原さんの後ろで、風に揺られた江戸風鈴たちの涼やかな音がまちまちに鳴り響いていた。よく聴いてみると、確かにその音はチリンだったり、カランカランだったり、みんな異なる音色を奏でていた。しかし、どれもが後を引くことなく綺麗に消えていく。それぞれが唯一無二の音を奏でている。

そして3つ目の特徴は、絵付けの仕方である。「江戸風鈴は、一つひとつ内側から絵付けしていきます。」そう言って、篠原さんは、丁寧に風鈴の内側に筆を走らせた。風鈴は本来、外気にさらされる場所に吊るして使う物。そのため、雨や風で剥がれないよう、内側から絵付けを行うのだ。そこまでの気遣いが込められているとは。「油絵の具のため乾きが悪く、一色塗っては乾かし、また塗っては乾かしを繰り返します。」簡単な絵柄でも完成までに2~3日かかるという。その絵柄の種類も豊富で、魔除けを意味する朱色が塗られた伝統的な柄はもちろん、今ではアサガオや金魚など夏らしい涼し気なモチーフも人気だ。職人の手で丁寧に絵付けされた風鈴は、ガラスの光沢とともに艶やかだ。

江戸風鈴が作られる工程は、実に繊細で丁寧であった。あの可愛らしい風鈴の一つひとつは、自分だけの音色を奏でることができるよう、職人が情熱や真心を込めて大切に作っている。そんな彼らの想いがあるから、江戸風鈴が奏でる音は、私たちの耳に優しく心地よく響くのだろう。江戸風鈴は、その音色に乗せて作り手の想いを耳に届けてくれる。私の家の窓際にも、1つ江戸風鈴を吊るしてみよう。夏の暑い日、耳から入る優しい江戸の音色が、心を涼しく軽やかにリラックスさせてくれるだろう。

- Information -
施設名:篠原風鈴本舗
住所:東京都江戸川区南篠崎町4 - 22 - 5
電話番号:03 - 3670 - 2512
営業時間:9:00 ~18:00(店休日:不定休)
- Interviewer -
Kanako Sato, Marketing Communications, Specialist