
嗅覚Sense of Smell
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2024.04.27
石坂 将 ~さりげなく香り、バランス良く着地させていくことが「東京らしさ」~
Sense of Taste
SHOLAYERED
ショーレイヤード
香りには形がない。見ることができない。それなのに、何故か香りを明確に思い出すことがある。例えば、何年も前に訪れた旅先の香りを不意に思い出したり、街中ですれ違った人の香水で、昔の恋人を思い出したり……。誰しもそんな香りにまつわる経験があるのではないだろうか。私たちは、香りを通して知らず知らずのうちに記憶とコミュニケーションをとっている。それもそのはず、人間の五感の中でも、香りを感じる「嗅覚」だけが唯一記憶をつかさどる「海馬」という脳の部位にほぼ直接的に信号を送ることができるのだそうだ。
記憶とその時の感情までも呼び起こしてくれる、そんな香りがメズム東京にもある。ホテル館内では、季節に合わせて2種類のオリジナルフレグランスを入れ替えてゲストをお迎えしている。このフレグランスをプロデュースしてくれたのが、日本の香水業界を牽引する石坂将さんだ。香水業界に入って約16年、数々の企業や著名人とコラボレーションをし、日本フレグランス大賞を受賞した実績も持つ彼は、「空間フレグランスは、居心地の良さを広げてくれ、その土地とマッチすることがとても重要」と語る。「旅先で良いなと思って買ってきた香りが、自宅だとそんなに感動しないということがありますよね。その土地で味わうからこそ良い香りというのがあるんです。」石坂さんによれば、それは気温や湿度、その土地の醸し出す雰囲気がその要素となるのだそうだ。

メズム東京のオリジナルフレグランスは、まさに「東京」という土地にスポットライトを当てた、ここにしか無い唯一無二の香りである。1つ目のフレグランス。これは、湿度が高い春・夏の季節に漂う、グルマンな印象のシトラスの香り「Tokyo CITRON(トーキョーシトロン)」。このベイエリアでは、温かい気候になると南風が吹き、湿気と磯っけを拾ってくる。この地理的な特徴と日本人の「柑橘系好き」という趣向を重ね合わせて考慮し、この香りになった。そう話す石坂さん自身も、東京のベイエリアの出身。愛着があるこの土地だからこその香りに仕上がった。ホテルに一歩踏み入れた瞬間にさらりと香る爽やかなシトラスの香りは、ゲストの鼻腔を蕩かすとともに、開放感あふれる東京のウォーターフロントを演出している。
2つ目のフレグランス。これは、気温が下がり空気が澄む秋・冬の季節にゲストを温かく包み込む 「Tokyo OUD(トーキョーウード)」。古来より、世界中で来賓のもてなしに珍重された「ウード(沈香)」のスパイシーな香りが魅力だ。洗練された人々がドレスアップして集まる秋や冬、そこに似合う「大人の色っぽさ」を表現したのだそうだ。日本ではやや苦手な方もいるというこのウッディーな香り。それをこの場所に合うよう、日本人にも受け入れられるよう、ウード系の風味は残しつつも香りを軽く調整した。木々を感じさせるエキゾチックでどこか温かみのある香りは、寒い日でも冷えた心を落ち着かせてくれる。どちらの香りも、こうしてバランス良く着地させていくことが「東京らしさ」なのだそうだ。

石坂さんは、「東京らしさ」について、もう一つ大事なことを教えてくれた。それは「さりげなく香る」ということ。「香りや匂いが苦手と感じると、その空間に居続けることが難しくなってしまう。だから、心地よい香りを提供していくことはとても重要です。」確かに心地よさは大事だが、その「心地よさ」の定義とは、いったい何だろうか。人によってまちまちな「心地よさ」をどう表現するのだろう。「僕の考えとしては、“吸い込める”かどうか。ふわっと香りがあって、それを鼻が追いかけようとする。そのぐらいが一番良いんだと思います。」と石坂さんは答えてくれた。

彼が「東京らしさ」を表現できるのは、日本という国を理解し「メイドインジャパン」の香水にこだわってきたからだろう。現在、自身のプライベートブランドでは、香りを重ね付けするという新しい選び方・楽しみ方を提案する「SHOLAYERED」を展開中だ。ジャパンクオリティを心がけた丁寧な生産で、ラインナップのすべてがメイドインジャパン、世界12ヵ国に日本のフレグランスの魅力を伝えている。
さらに、彼の口から興味深い話が飛び出した。香りと食についてである。その国の香りの文化は「食」と結びつくことが多いのだと。「日本人は繊細な感性をもっています。柑橘系の香りが好きで、さりげなさや透明感、繊細な出来上がりを良しとする感覚があります。和食は薄味で出汁の世界。そこにカボスやスダチ、レモンなどの柑橘がさりげなく登場する。これが日本の香りの文化だと解釈しています。」この説明には合点がいく。シンプルな軸に、さらりとアクセントとなる要素が絡み合う。そういった和食の考え方をベースに誕生した香水は、海外マーケットにおいて要所要所で和の価値観を発揮し、現地に受け入れられていくのだそうだ。そんなジャパンメイドの強みを持ち合わせたフレグランスブランドは、ほかを探してもあまり無いだろう。石坂さんが、自信をもって彼の香水ブランドを東京から世界に発信していく姿は、「TOKYO WAVES」をコンセプトに掲げるメズム東京の想いともリンクしている。「東京で揉まれたものは、とてつもない波の入れ替わりを潜り抜けてきているので、海外に出ても強いはず。」そんな言葉に、強く勇気づけられた。

記憶に残る香り。それは、漠然と良い香りというだけではない。その土地の風土や特徴が投影され、より一層の輝きを放った時にはじめて、人々の印象に残っていくのだ。最後に石坂さんは、「香りと同じで、空間デザインも長くいられるかが大事です。」と話してくれた。「メズム東京は、ラグジュアリーなホテルの中でも独特な色使い、デザインです。そんな空間で過ごすその時々をフレグランスと一緒に楽しんでほしいです。」夏は、東京湾の心地よい海風を感じながら、ビール片手にバルコニーでのんびりと。冬は、ハンドドリップした珈琲で冷えた体を温めながらぬくぬくと。そんな風に思い思いに過ごすゲストに、フレグランスがそっと優しく寄り添い、ここで紡がれたストーリーとともに素敵な記憶として心に刻まれていく。
- Information -
施設名:SHOLAYERED本店
住所:東京都渋谷区恵比寿西1 - 16 - 2 恵比寿フラワーマンション1F
電話番号:03 - 3780 - 0825
営業時間:営業時間 12:00 ~18:-00(
定休日:月曜日)
- Interviewer -
Kanako Sato, Marketing Communications, Specialist