Sense of Taste
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2026.03.01
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対談: 「アサヒナガストロノーム」オーナーシェフ 朝比奈悟氏 × 「メズム東京、オートグラフ コレクション」キュリナリーマイスター 隈元香己

Sense of Taste

 
ASAHINA Gastronome
アサヒナガストロノーム

「美味しい」は、皿の外側で完成する——

水辺の空気は、温度や匂い、そして音をそっと運んでくる。
東京湾の光は刻々と表情を変え、都会の輪郭さえ、やわらかくほどけていく。メズム東京のフレンチダイニング「シェフズ・シアター」で料理を組み立てるキュリナリーマイスター 隈元は、そんな“揺らぎ”を日々の感覚として知っている。味覚は、決まった正解があるものではなく、その場の体験のなかで立ち上がってくるものだからだ。
 
 

Tokyo Waves Magazine Vol.3「Sense of Taste」で、隈元が対談相手として名を挙げたのが、兜町の「アサヒナガストロノーム」オーナーシェフ 朝比奈悟氏。朝比奈シェフは、店の哲学を「人」と「料理」という二つの言葉に込めている。食を文化として捉え、食を通じて人と人の関係が深まっていくこと。古典に学びながら、今の感性で料理を更新し、ひらめきを形にしてフランス料理の魅力を紐解いていくこと——その二本柱で、日々の一皿を積み重ねている。
 
 

 「美味しい」は、料理だけで終わらない

隈元シェフ: 朝比奈シェフにとって、「美味しい」とは何でしょうか。技術や素材の話に落ち着きがちですが、今日はもう少し外側から伺いたいです。
 
朝比奈シェフ: 料理が美味しいことは、当然の前提です。そのうえで、サービスと料理と空間が一体になり、レストランとしての完成度が上がっていく。そこで初めて「美味しい」が成立するものだと考えます。“味覚”という言葉は舌に閉じているようで、実際には開いています。皿の温度、運ばれるテンポ、ソースの香りがほどけるタイミング、客席の空気が静まる一瞬。そうした無数の要素が同時に鳴るとき、食べ手の中で「美味しい」が完成します。
 
隈元シェフ: 味覚を「体験設計」へ引き上げる、ということですね。
 
朝比奈シェフ: はい。そして伝統を守るためには、現代へチューニングしていく必要があります。
 
隈元シェフ: 朝比奈シェフの料理は、クラシックの厚みがありながらも、モダンに研ぎ澄まされている印象があります。
 
朝比奈シェフ: 私の軸はそこです。フランス料理の歴史に潜り、レシピを自分の解釈で再構成していきます。過去を飾るのではなく、未来へ通すための読み替えですね。
 
隈元シェフ: なるほど。古典を“未来へ向けて調律する”という姿勢が、料理の輪郭として現れているのですね。
 
朝比奈シェフ: ありがとうございます。導入からの重なり方、コンソメやデザートの見せ方まで含めて、ひとつの体験として組み上げています。
 

日本の食材は「主役」ではなく「エッセンス」
 
隈元シェフ: 食材について伺います。どのようなこだわりをお持ちでしょうか。
 

 
朝比奈シェフ: 日本の食材は「主役」ではなく、「エッセンス」として効かせています。日本でフレンチをつくると、食材の魅力が強いぶん、気づけば“和寄り”になりかねません。だからこそ、バランスが難しいのです。季節感は当然大切にしつつ、フレンチであることは崩さない。そのうえで、日本の食材をエッセンスとして使います。フランスの食材や文脈を踏まえたときに、日本の食材を“点火”させるように効かせて、味を組み立てていく——そんな感覚です。
 
隈元シェフ: 素材の国籍ではなく、味の必然性を問う。だからこそ、派手さより「誠実さ」が前に出るのかもしれませんね。朝比奈シェフの料理は、季節感に加えて、手間暇のレイヤーが深い印象があります。東京で“突出したフレンチ”を成立させるのは、相当な負荷もあるはずです。
 
朝比奈シェフ: 東京は、情報も体験も過密です。だから「ただ良い」だけでは埋もれてしまう。けれど「奇をてらう」だけでも残りません。結果として、基本を積み上げる方向になります。トレンドは速く、比較の目は厳しい。だからこそ、料理は「積層」で語られます。ソースの濃度、香りの立ち方、温度の落とし方、皿の間合い——その積み重ねが、都市の速度に耐える輪郭になります。
 

最後に残るのは「美意識の差」

隈元シェフ: 「対お客さま」という点では、どのように向き合っていらっしゃいますか。



朝比奈シェフ: 結局は「対お客さま」です。お客さまを起点に考え続ける。今は、どこでもおいしいフレンチが食べられる時代です。成熟しているからこそ、“自分を信じる”ことが問われるのだと思います。自信を持って出した料理なら、お客さまはきっとついてきてくださる。そう信じて、毎日、料理、スタッフ、空間——すべてと真摯に向き合っています。成熟した市場では、技術差は縮まり、情報は均されます。そこで最後に残るのは、「美意識の差」なのだと思います。
 
隈元シェフ: 味覚は点ではありません。コースは線であり、その線はテンポで呼吸します。皿が続くほど、食の時間そのものがひとつの構成物になんですよね。「シェフズ・シアター」でも、料理はもちろんですが、「どのタイミングで、どう運ぶか」で印象が変わります。集中が静かに続いたあと、ふっと一気に味覚が開く瞬間がありますよね。
 
朝比奈シェフ: だからテンポは重要です。早い、遅いというより、“迷わせない”。味の輪郭が出るところまで、きちんと連れていく。私はそう考えています。


次に目指すものとは?

朝比奈シェフ: 目指すのは、さらなる高みです。今年はミシュランの三ツ星を取りたいですね。そして「グランメゾンの楽しさ」を伝えたいです。料理と空間を含めて、「グランメゾンのレストランって、こんなに楽しいんだ」と、記憶に残るところまで持っていきたいと思っています。
 
隈元シェフ: 「楽しい」という言葉を、ガストロノミーの文脈で真正面から語れるのは強いですね。楽しさは軽さではなく、緻密さの結果として立ち上がる感情だと思います。




 

最後に
 
美味しいものは、国境を越えて人を惹きつける。けれど、「美味しい」だけでは、いつまでも心に残り続けるとは限らない。味を覚えると書いて味覚——その言葉のとおり、記憶に残る味は、いつも体験と結びついている。二人に共通しているのは、とてもシンプルだ。「美味しい」は大前提。良い食材を使うことも、同じく大前提。そこから先にあるのは、どれだけの想いを込めて、誰に、どんなかたちで届けるか。店がひしめく東京で、比べられることを恐れずに、自分の舌と感覚を信じ、お客さまの感性も信じて、一日一日を積み重ねていく。その真摯さに、ただただ脱帽である



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- Interviewer –
Shiho Sugimoto, Director of Marketing Communications