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2025.04.27
“TOKYO WAVES” ~視覚から世界へ。そして北斎が浮世絵によってもたらしたもの~
Sense of Sight
すみだ北斎美術館
SUMIDAHOKUSAIBIJUTUKAN
“TOKYO WAVES” ~視覚から世界へ。そして北斎が浮世絵によってもたらしたもの~
東京・竹芝に位置するメズム東京が掲げるのは、“TOKYO WAVES”というコンセプト。それは、まるで音が波紋のように広がっていくように、東京という都市の魅力を、五感を通じて共鳴・発信していく思想である。2025年最初の“波”は、墨田区にあるすみだ北斎美術館から始まる。再開発ラッシュの進む東京の中で、人びとの日々の営みが、街の中に息づいていることを感じられる場所、それが東京・墨田区、両国。そんな景色の中に現れるシルバーの特徴的な建物、それこそがすみだ北斎美術館だ。
“TOKYO WAVES” ~視覚から世界へ。そして北斎が浮世絵によってもたらしたもの~
東京・竹芝に位置するメズム東京が掲げるのは、“TOKYO WAVES”というコンセプト。それは、まるで音が波紋のように広がっていくように、東京という都市の魅力を、五感を通じて共鳴・発信していく思想である。2025年最初の“波”は、墨田区にあるすみだ北斎美術館から始まる。再開発ラッシュの進む東京の中で、人びとの日々の営みが、街の中に息づいていることを感じられる場所、それが東京・墨田区、両国。そんな景色の中に現れるシルバーの特徴的な建物、それこそがすみだ北斎美術館だ。

すみだ北斎美術館外観 撮影:尾鷲陽介
近代的な建築物だが、不思議とまわりの景色と調和し、目の前の公園では人々が憩う。すみだ北斎美術館は、浮世絵師 葛飾北斎(以下、北斎)ゆかりの場所にあり、北斎とその門人たちの浮世絵を展示する美術館だ。江戸時代を生きた日本のひとりの絵師の浮世絵は、どのように世界に広まり、今もなお私たちを魅了し続けるのか。そして、そんな北斎が生涯のほとんどを過ごした墨田区の今までとこれからとは。本記事では、北斎の浮世絵とすみだ北斎美術館の取り組みやそれにまつわる皆さんのお話をお伺いしながら、その魅力にせまる。
北斎の浮世絵、私たちは何に魅了されるのか
ー 当時の世界に北斎がもたらしたもの ー
葛飾北斎は、浮世絵師の中でも誰しもがその名を知る、日本を代表する浮世絵師であり、アーティストだ。その活躍はセンセーショナルなものだった。浮世絵は、それ自体が作品でありながら、摺物(すりもの)として人びとに広まり、メディアとしての役割も担っていた。1867年に開催されたパリ万博に際して、日本から陶器などの工芸品が多く海外に輸出された。その一方で、1850年代半ばから、輸出品の包み紙として使われていた北斎の浮世絵がヨーロッパにもたらされ、当時の人々に大きな衝撃を与えたといわれている。ゴッホ・モネ・ドガなど当時の西洋画家たちの中でムーブメントが生まれ「ジャポニズム」という新たな芸術文化の潮流が生まれたほどだ。転居を重ねながら生涯の多くを現在の東京の墨田区に暮らした北斎が手掛けた浮世絵は、日本の私たちのみならず、広く海外に知られその影響を今も残している。そんな北斎の浮世絵の、何に私たちはここまで魅了され続けるのか。

葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」実物大高精細レプリカ
すみだ北斎美術館『北斎を学ぶ部屋』にて
ー その視覚表現の特性 ー
北斎の浮世絵がもたらす視覚表現の魅力を、以下の特性にわけて取り上げる。
構図表現
従来の西洋絵画にはない、遠近法や大胆な幾何学的構図表現。実は北斎の浮世絵のモチーフには、丸や四角、三角形など様々な幾何学模様が印象的にひそんでいる。館内に展示されている『北斎漫画』でもその構図を理解することができるが、見えたままの写実的な構図ではなく、モチーフそのものを大胆に表現する構図の仕掛けがある。
織りなす色彩感覚
浮世絵ならではの版画表現。線画のシャープさと多色刷りによる、鮮やかかつ繊細な色彩が織りなす、1枚の絵の中に込められた色彩感覚。特に「北斎ブルー」と呼ばれる、北斎が愛した独特の青の顔料は、北斎を代表する浮世絵「神奈川沖浪裏」にも使用されるブルーで、見る人の印象に深く鮮やかに残る。
「浮世」を描写した、生きいきとした人間描写や、自然、動物のダイナミックな表現
北斎が描いたものは、実際に「目で見えるもの」にとどまらず、目でとらえた一瞬に凝縮された印象や生命力、そのものの本質を、浮世絵という画面の中に、命を吹き込むように表現していると言えるのではないだろうか。日本従来の水墨画や、西洋絵画の肖像画的表現を超えた、静と動をとらえた一瞬。飾り気なく、おもしろおかしく当時の風俗をとらえた人物描写には、まるで自分もその瞬間に立ち合っているような、驚きと感動、親しみを感じる。

すみだ北斎美術館『北斎を学ぶ部屋』 撮影:尾鷲陽介
今・これから先の世界に広がるTOKYO WAVES
ー 現代にその魅力を伝える館内の工夫 ー
すみだ北斎美術館では、そんな葛飾北斎の浮世絵の魅力を今に伝える工夫と随所で出会うことができる。4F『北斎を学ぶ部屋』では、すみだと北斎のつながりにはじまり、代表作の実物大高精細レプリカで北斎の変遷を辿る展示と共に、タッチパネルでより詳細に作品を知ることができる。実際に操作しながら、北斎の一筆描きの筆跡を指でたどってみたり、円や三角形などの図形をパズルのように組み合わせ、北斎が描いた絵の中にひそむ構図を、手を動かしながら理解する体験ができる「北斎絵手本大図鑑」のコーナーもある。ついつい時を忘れて、北斎のまなざしを辿ることに没頭してしまう。
ー 企画展の取り組み ー
また3階企画展示室では、その時々の様々な企画展・特別展テーマから、現在を生きる我々と、浮世絵が重なるポイントを知ることができる。2025年4月現在は、NHK大河ドラマ「べらぼう」のモデルとなった蔦屋重三郎を含む板元を紹介した「北斎×プロデューサーズ 蔦屋重三郎から現代まで」を開催中だ。商業的な出版物であった浮世絵は、企画から販売までを手がける「板元」が存在し、彼らは総合プロデューサーのような役割を果たしていた。本展を通して、現代の我々ともクロスオーバーする、当時の浮世絵の成り立ちやそれにまつわる人々の営みに触れることができる。

企画展「北斎×プロデューサーズ 蔦屋重三郎から現代まで」
開催は2025年5月25日(日)まで
すみだ北斎美術館には、国内外から幅広い年代の来館者が訪れている。近年は、全体の約7割を占めるインバウンドの家族連れの姿が特に目立つ。来館者の多くは北斎や浮世絵に強い関心を抱いており、とりわけ「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」には、国内外問わず圧倒的な注目が集まっている。館内では、北斎の画号ごとの代表作や絵手本をデジタル技術を用いて紹介する『北斎を学ぶ部屋』や、失われた作品の復元展示などを通じて、北斎と地域との関係を立体的に体感できる工夫が施されている。地域連携も積極的に行っており、これまでに映画や企業とのコラボレーション、近隣施設とのスタンプラリーなどを通じて、地域文化と共鳴する“開かれた美術館”としての存在感を高めている。また、年間約4回実施される企画展は、テーマの設定から展示解説、子ども向けワークシートの配布に至るまで丁寧に構成されており、幅広い世代に親しまれている。4階常設展プラスにおいては、複製画による「隅田川両岸景色図巻」や、『北斎漫画』の立ち読み展示が好評を博している。今後は、地域住民により親しまれる存在を目指し、「イベントパートナー制度」を通じて地域の人々等と協働し、“北斎”“江戸”“すみだ”をキーワードとしたイベントやワークショップにも力を入れていく方針である。すみだ北斎美術館は、まさに“すみだ”が生んだ世界的画人・葛飾北斎の精神を、現代に息づかせる文化拠点である。
すみだ北斎美術館の歩みと展望
すみだ北斎美術館の、これからの展望を澁谷哲一特別顧問に伺った。澁谷氏は、2025年3月まで同館館長をつとめ、墨田区文化振興財団の理事長。東京東信用金庫に長年つとめられ、墨田区のこの場所と共に生きてこられた方だ。そんな澁谷氏に、インタビューをさせていただいた。
すみだ北斎美術館のそもそもの誕生の経緯
「北斎はおよそ90年間という生涯の多くを現在の墨田区内で過ごし、区内を移り住みながらもこの地に深く根ざして活動していた。そのため、現在の墨田区にとって北斎はゆかりの深い浮世絵師であり、区としても多くの作品を大切に収蔵していた背景から、彼の作品を広く公開し、北斎の魅力を発信する美術館を設立したいという想いが、当時の区長の強い願いとして形になったのです。今ではもう誰にでも喜ばれる美術館になってよかったなと思いますけど、最初から簡単であったわけではありませんでした。建築はプリツカー賞を受賞した妹島和世さんが手がけられ、建築を見にいらっしゃる方もいらっしゃいます。」
澁谷氏が感じる北斎の魅力
「自分と少し共通点を感じており、自由奔放に生きた人だと思っているんです。93回も引越しをしたり、30回以上も名前を変えたり、お金には無頓着だったり・・・自由奔放な生き方をしていたんじゃないかな、と。それがああいう、(大胆で自由な)絵につながっていったんじゃないかな、と思います。僕も専門家じゃないからその価値観というのはよく答えられないけど、ただ描くのが優秀なだけではなくて、そういった人間味、そして魅力があったのではないかなあ。」
変わりゆく東京の街の中で、墨田区としての魅力・残していきたいもの
「墨田区は僕が一番大好きな場所ですが、ほかの区では真似できないところが沢山ある気がしています。人口も28万人くらいで、小さな区なんだよね。非常にまとまりやすいんじゃないかな。昔っからの下町人情の町だから、本当に皆、地域の人たちが子どもたちの面倒を見たりね。そういうことをするし。コロナ禍でも“すみだモデル”というのが早速できたくらい。ただこう、街の様相はスカイツリーができてから全く変わりましたよね。その前は、人口が少なくなって、他の区と合併の話もあったくらいだったんです。若い人はみんな外に出ていって、入ってくる人も少なくて。街の人たちも変わっていった。若い人も地元に残って事業を受け継いだり、新しい若い人が入ってきてくれたり。どんどん活気ある街になってきた。歴史と、文化と、芸術と、スポーツの街、すみだ、そのものなんですね。歴史そのものが残っていて、東京でもめずらしくなってきた芸者さんだったり、花火大会だったり。いずれ、隅田川沿いを運行する水辺ライン(水上バス)と繋がって、隅田川沿いの色々なスポットとも連携ができたらいいですね。」
これからのすみだ北斎美術館の展望
「今でもすみだ北斎美術館では、美術館のみならずMARUGEN100(講座室)というものがあって、ワークショップをやったり、講演会をやったり、地域の人たちが色んなイベントをやって、海外の方に向けた着物の着付けを行ったりしています。また前の公園(墨田区立緑町公園)との一体化ということで、スポーツ庁とイベントのテストランをしてみたり、スポーツと文化芸術の融合の取り組みなど、単に美術館がここにあるよ、だけでなくて、色んなところとコラボレーションをしているんですね。浮世絵の作品もここにあるものだけではなくて、全国の美術館との交流をしながら作品を展示させていただいたり。まさに、世界の北斎美術館となるような、様々なコラボレーションを行って発信していく予定です。墨田区も来年には『総合的芸術祭』の開催があり、さらにおもしろい街になっていくと思いますよ。」

すみだ北斎美術館 特別顧問 澁谷哲一氏 東京東信用金庫両国本部ビル 葛飾北斎像と共に
最後に
「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」これは日本を代表する写真家、森山大道の写真集のタイトルであるが、まさに北斎の浮世絵を目の前にしたとき、そのような感覚を覚える。北斎の残した浮世絵が今なお現在を生きる我々を魅了し、時代を超えて、様々なモチーフにリアレンジされながら新しく命が吹き込まれるように様々なモチーフとして愛されているのは、まさしくその体現ではないだろうか。
「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」これは日本を代表する写真家、森山大道の写真集のタイトルであるが、まさに北斎の浮世絵を目の前にしたとき、そのような感覚を覚える。北斎の残した浮世絵が今なお現在を生きる我々を魅了し、時代を超えて、様々なモチーフにリアレンジされながら新しく命が吹き込まれるように様々なモチーフとして愛されているのは、まさしくその体現ではないだろうか。
今昔を越え、“TOKYO WAVES”を体現する北斎の浮世絵、そしてすみだ北斎美術館の存在は、これからも世界中の多くの人に向けてその魅力や取り組みを発信していくことだろう。
- Information -
施設名:すみだ北斎美術館
住所:〒130-0014 東京都墨田区亀沢2-7-2
電話番号:03-6658-8936(9:30-17:30 休館日除く)
開館時間:9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)休館日/毎週月曜日(月曜が祝日または振替休日の場合はその翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)ほか
- Interviewer -
Yuri Tachikawa, Marketing Communications Executive
- Interviewer -
Yuri Tachikawa, Marketing Communications Executive